「こんなところに、こんないい温泉があったなんて!」
仙台で温泉といえば、秋保温泉と作並温泉が観光名所として有名だが、実は、地元の人向けのローカルな温泉(ジモセン)も点在している。
仙台のジモ泉と言うと、広い浴場にいくつもの浴槽があるスーパー銭湯的な日帰り温泉施設が多く、温泉マニアには少々物足りないかもしれない。しかし、温泉マニアにも自信をもっておすすめできるジモ泉が、仙台の北部、泉区にある。
温泉マニアもおススメしたい良質な源泉かけ流し
大規模な開発が行われた閑静な住宅街のエリアのお隣、根白石(ねしろいし)。周囲に田畑が広がり、思わずめいっばい伸びをして、深呼吸したくなるような場所に、地元の人たちに愛されながら、ひっそりと営まれている日帰り温泉施設がある。それが、明日(あす)の湯だ。
ホームページもないような小さな温泉施設であるが、しかし、侮るなかれ。お湯が、最高に、イイ。秋保温泉よりも、はるかに、イイ。
泉温が42度と、湯浴みに適温のため加水も加温もしておらず、少しぬるめの、ゆっくり浸かるのに最適な湯加減となっている。さらに、塩素消毒なし、循環ろ過なしのれっきとした源泉かけ流しの温泉だ。
泉質は、ナトリウム-塩化物泉、低張性弱アルカリ性高温泉、いわゆる食塩泉で、無色透明のお湯だが、ほのかにトロッとしている。浴室に入ると、硫黄臭とはまた違う、独特の香りがふわっと漂っていた。
お湯がとても柔らかく、湯船に浸かっていると、だんだんと肌がスベスベしていく。
「すべすべだから触ってみて」
風呂上りも、いつまでもすべすべなので、ついつい人に触らせたくなる。自分の顔を撫でたくなり、寝るまでの間、何度となく、自分の頬を手の平で撫でた。そんな美肌の湯。温泉マニアでもきっと満足いく泉質だ。
「こんな温泉に気軽に来られる、近所の人がうらやましい」
これからは、「泉区に用事があったら、必ず寄りたい」と思ったほどの良い温泉だった。
こじんまりとした日常使いのジモセン
入り口の引き戸をあけると、人が一人立ったらいっぱいになってしまうほどの小さな玄関があり、縦に細長い待合室風のロビーがある。そこに、横長のソファー2脚、貴重品ロッカー、自動販売機と券売機が置かれ、奥の番台でチケットを渡し脱衣所に入る。男湯は入り口のすぐ右手、女湯は奥の扉から入る。
脱衣所には、洗面台が2台と脱衣かごの棚、ベンチが置かれているが、人がすれ違うのもやっとのような狭さだ。ドライヤーが1台置いてあるが、もちろん、洗面台に椅子などない。椅子を置くほどスペースに余裕がないからだ。
浴室は、すごく狭いという感じはなく、シャワーが4つ、浴槽は、大人が6人ほどは入れる広さ。お湯は並々と注がれ、お尻を床につけて浸かると顎が付くほどの深さ。備え付きのシャンプーと石鹸はあるが、リンスはない。石鹸は固形せっけんで、今時珍しい。シャワーの水圧が弱く、チョロチョロとしか出ない。
地元の人との交流を楽しみたい人におすすめ
平成8年に開湯した比較的新しい温泉で、建物自体には小さな公衆浴場に見られるような、ひなびた雰囲気はあまりない。建物は、古くもなく新しくもない。浴室も比較的キレイで、侘びさびを感じられような古びた感じもない。
明日の湯は、温泉の公衆浴場というよりは銭湯のような趣の温泉で、利用客のほとんどは地元の常連客。マイシャンプーと石鹸を仕込んだ小さなプラスチック製のカゴを、片手にぶらぶらさせながらやってくる。
建物には、懐かしさを感じるひなびた感じはないが、そこに通う常連客が温かく、人との触れ合いに懐かしさを覚える。そんな温泉だ。
「ママー、ゴム忘れた……」
小学一年生の次女が、先に浴室に入っていた私に困った顔で声をかけた。「え!忘れちゃったの?困ったね……」。手ぬぐいタオルで髪の毛を巻こうかと、考えていると、「おばさんがゴムくれた」と言って、髪を束ねて次女が浴室に登場した。聞くと、脱衣所にいたおばあさんが、番台の女性に聞いてくれて、ゴムをもらってくれたらしい。
「親切な人がいて助かった」と思ったが、浴室にいた20分ほどの間で、どうやらこの気さくなコミュニケーションは、常連客にとっては当たり前のことのようだ、と知ることになる。
娘たちと湯船に浸かっていると、おばあさんが、話しかけてきた。
「何年生? どこの小学校?」
そんな風に世間話をする当たり前。
温泉から上がる娘にタオルを手渡そうとすれば、横に立っていたおばさんが、受け取り橋渡しをしてくれる当たり前。
脱衣所に出入りするときに「こんにちは」、「お先に」と、そこにいる人が見ず知らずの人であろうと、挨拶をする当たり前。
ベンチタイプのソファーが2脚と、漫画が置いてある待合室のような小さなロビーでは、ふろ上がりの常連客が、旦那さんが脱衣所から出てくるのを待ちながら、番台のお母さんと世間話に花を咲かせる当たり前。
明日の湯に流れる、当たり前に人と触れ合う空気感が、とても温かいと感じた。この温泉を語るには、この常連客の気さくな雰囲気を置いて語れない。なぜなら、お湯が良質なのはもちろんのこと、この温かい雰囲気が居心地がよく、また訪れたくなってしまうからだ。
常連客とともにある公衆浴場
脱衣所の壁に、湯船に浸かる前に石鹸で体を洗うこと、湯船で顔を洗わないことがお願いとして掲示してあった。
一人の常連客が、湯口から洗面器に温泉を汲み、浴槽を出ると、洗面器のお湯で顔を流していた。なるほど。つい、湯船に浸かりながら、両手でお湯をすくい顔を流したくなってしまうが、この方法はとても良い。私も真似して、洗面器にお湯を汲み、顔を流した。
こうした行動からも、常連客たちが、この温泉を大切にしていることが分かる。
「なんていい温泉なんだ! みんなに教えたい」という衝動ともに「あまり知られてしまうと、常連客のみなさんが利用しにくくなってしまうのでは」そんな心配も頭をよぎり、記事に取り上げるか正直悩んだ。明日の湯は、日帰り温泉施設というよりは、地元の常連客とともにある公衆浴場だからだ。
しかし、こんなにいい温泉を他の人にもおすすめしないわけにはいかない。そこで、一見さんは混み合う時間帯を避けたり、マナーを守ることで、常連客がこれまでと変わらず気持ちよく利用できるよう配慮を忘れずに利用してはどうだろうか。
仙台観光でも行けちゃうジモセン
仙台近郊には、おススメの温泉がいくつもあるのだが、いかんせん交通の便が悪く、車がないといけないところが多い。しかし、明日の湯は、仙台の中心部から、電車とバスを乗り継いで行けるため、県外から来た観光客でも利用可能だ。
地下鉄南北線の北の終着駅である「泉中央駅」から、バスで20分、車で15分ほど。根白石デイサービスセンターから徒歩2分ほど、主要道路からわき道に少しはいったところに、周囲の田園風景になじまない黄色い小さな建物が見えたら、それが明日の湯だ。
明日の湯 温泉情報
泉質 | ナトリウム-塩化物泉 低張性弱アルカリ性高温泉 |
営業時間 | 10時~22時 (受付21時30分まで) |
料金 | 大人500円/子供300円(3歳~) 休憩室利用 大人300円/子供150円(3歳~) |
電話 | 022-376-7886 |
住所 | 仙台市泉区根白石新坂上34-10 |
HP | 泉かむりの里観光協会 |
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